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   野宿?!(ポーランドにフレスコ画を描きに行く11)
     昨日から、突然気温が下がって涼しくなりました。朝8時で19度。ちょっと寒いぐらい。
      日中でも25度ぐらいで、気持ちのいい天気です♪ が、もう風邪ひきました^^;


     5月11日(水) 午後

     10分?15分? 航空写真を撮りに来たヘリコプターは、ゆっくりあたりを何度も旋回しながら、
     そのうち遠くの空へ消えていった。
     ああ、行っちゃった・・・。
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     さあ、作業再開!早くしないと漆喰が乾いちゃう!

     今度は、私の大事にしているモチーフ、空を飛ぶさかなを塗る。
     メキシコらしい強い色彩のジーザスの絵を見ていて、あんなふうにグイグイと色を塗っていくのも
     いいなって思ってた。
     だからさかなの部分は色水ではなく、パレットにピグメントをとって、少ない水で塗ってみよう。

     「モメント・ドーロだ」とジーザスがつぶやく。
     イタリア語で momento d'oro、日本語に直訳すると、金の瞬間。
     「何も心配事のない、自分が満足してる時間だよ」
     そう言うジーザスに、「私には、心配事のない、そんな時間来るのかしら」と、自分のフレスコ画を
     見ながら私はつぶやき返す。
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     空の部分が終わり、女の子の頭の部分を塗っている頃だったかな。
     なんだか背後のみんなが騒いでる。
     すると突然アダムが遠くから私に叫ぶ。「さかなは車に乗ってくかい?」
     いつもなら7時半ぐらいまで作業をするのに、5時半頃に、すでにアダムが帰るという。
     今アダムの車に乗らなかったら、ここに泊まるしかないという。

     え〜!ちょっと、ちょっと!そんな急なこと言われたって、急には作業はやめられない。
     少なくとも、余分な漆喰を掻き落とすところまではやらないと、全部台無しになってしまう。

     こういう伝達事項って、私のところに来るのはいつも最後だ。
     アダムからポーランド語でラウルへ。ラウルからメキシコ勢に伝わり、そこで彼らが話し合い、
     おおかた結論が出たところで、アダムかラウルから私へ英語で伝わってくるのだ。
     しかも事情は知らされないまま、私の返事のみを聞かれるから、たまったものではない。
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ヘリコプターの風で、テントの屋根が飛ばされたけど、作業し続ける私


     なんでアダムはこんなに早く帰る必要があるの?!たぶんアーシャが帰らなくちゃいけないんだ。
     今作業はやめられない。ここに野宿?!
     まあ、寒くはないだろう。でも、夜になると蚊が多いからなあ。
     そんなことを瞬時に考えながら、このオーガナイズの悪さにちょっと機嫌を悪くして、
     「私もここに残るよ!」と絵を描き続けながら叫び返す。

     後ろではまだゴタゴタが続いている。アダムがまた「さかな、作業やめて今来ないと帰れないよ!」と
     叫んでくる。
     イラッとしながら、「私はここに残るよ!作業を今はやめられない!」と再び叫ぶ。

     ラウルが「さかな、僕たちもみんなここに泊まるから大丈夫だよ」と言ってる。
     そしてどうやらそれを、アダムに伝えてくれてるようだ。
     「さかなも泊まるって?!」とアダムの声が聞こえる。
     彼はもうすでに、作業場からずいぶん離れたとこまで行ってしまってるみたい。勝手だな〜。
     こっちはいつもの作業時間を考慮して、今日のジョルナータを決めてるんだ。
     フレスコ画が急には作業を切り上げられないのを、アダムは知ってるはずだ。なのにこれって何なんだろう。

     「(残る意外)他に選択肢はないじゃない」そう独り言を言いながら、私は描き続ける。
     作業に慣れてきたとはいえ、漆喰がどこくらいの時間で乾いてしまうのかわからない。
     早く描き終えないとと気持ちが急いているのだ。

     「僕たちもみんな泊まるよ。作業を続けなくてはいけないからね」
     ラウルが背後から、まるで私をなだめるかのように話してる。
     ここでは私、自分の感情丸出しだな〜。
     いつもの我慢してる私はどこにいっちゃったんだろう。
     作業場で寝るのか〜。まあ、それもいい経験かも。でも蚊だけが嫌だな〜。
     はじめはそんなことを考えてたけど、すぐまた自分の作業だけに没頭しはじめる。
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     さあ、大事な顔の部分。
     光が胸の部分の月から出てるのだから、上半分は暗くしないと。でも濃くし過ぎて失敗したくない。
     いつもコントラストを強く出せないでいるので、心持ち強めに描いてみる。
     遠くから眺める。もう少し濃くてもいいかな。そしてもう一度遠くから確認。
     頬は少しピンクを入れてみよう。でも濃くいれ過ぎるとおてもやんみたいになっちゃう。

     「できた! 今日の作業終わり〜! 満足!」
     嬉しくって、思わず大きい声でジーザスたちの方に向かって言う。
     するとちょっとびっくりしたように、でもすごくニコニコしながら、ジーザスとラウルが私をみながら
     「大満足だって?」と言う。

     自分でもちょっとびっくりだ。こんなこと言うなんて、何年ぶり?もしかしたら初めてかも。
     でも今、大満足の気分なのだ。

     「だってね、昨日よりもうまく漆喰が塗れたし、考えて描けたから。昨日よりもうまくできた。
     それが嬉しいから」
     そうなのだ。初心者っていいよね。上達できることだらけだから、嬉しいことがいっぱいだもの。
     初心者の楽しみって、これに尽きると思う。

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     今この記事を書きながら、私って短気すぎるかなあとも思う。
     この日のアダムのやり方のように、自分が大事にしている作業を突如、理由も告げられずに中断させられる
     ことに、私はすごく不快感をもつし、イラッとなってしまう。
     ふだんからみてると、どうやらこっちの人は、イラついても平気みたいだ。

     日本人は、まず争い事を避けようとするから、相手の気持ちをくんだ話し方をするのがふつうだ。
     「○○だから、こうしなくちゃいけないんだけど、それでいいか」
     理由を伝えて、相手にわかってもらおうとする話し方。
     長い話し合いをしなくても穏やかに解決できるように、はじめから相手の考えを予想したうえで、
     自分の意図をわかりやすく伝えようとする文化。

     でもこっちでは、まずはその人がやりたいことを伝えるだけ。
     「僕は今帰らなくちゃいけないから、作業中断して。さもなければ泊まることになるよ」
     こっちが納得できるような相手の理由は、自分から聞かなくちゃいけない。
     こっちが「なぜ?どうして?」「でも私の事情は〜」といろいろ話せば、相手は聞く耳をもっている(はず)。
     「自分はこう思っている」という言い合いの文化だ。

     今だに私はこの文化に慣れないで、はじめに言われたことだけにパ〜ンと感情が反応してしまう。
     どんどん聞けばいいのに、どんどん言えばいいのに、日本式に「相手には相手の事情があるのだろう」と
     無意識に判断してしまい、相手の事情を優先して、自分を押さえるべきだと判断し、フラストレーションに
     いらついて黙ってしまう。悪循環。

     こちらの人が感情的ではなく冷静だというのではない。イタリア人なんて感情丸出しだ。
     相手にいわれたことにパ〜ンと感情で反応して、それが言葉と直結して、ものすごい勢いで出てくる。
     でもそれに対して言われた方も同様に反応するのだ。
     感情的な言い合い。
     正直いって、はたで見ていてぐったり疲れてしまう。
     でも、お互いに自分の言いたいことを言い合って(相手のことを聞いてはいないとしても)、
     お互いの妥協点が見つかればそれでよし。
     さっきの言い争いはなんだったの?!というほどにケロッとして、さっぱり終わる。
     感情的になることにネガティブな意識もないし、それに対するエネルギー量が違う気がする。

     問題は、感情的かどうかではないんだな。
     大事なのは、相手にしつこく聞けるか、言えるかどうか、だ。
     私みたいのは、ただ、すぐいらつくへそ曲がり、と見られて終わってしまってるのかも知れない。
     私自身でいられつつ、うまく相手とコミュニケーションできる方法って、どういうものだろう。
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     今日の成果に満足しつつ、気になっていた髪の部分をチェックする。
     この部分に使った濃い茶色のピグメントが、他のものとは違って、漆喰にあまりうまく密着しない感じが
     していたからだ。
     よくみてみると案の定、ピグメントが密着しているところとしていないところで、色がまだらになっている。
     色によって、ピグメントの性質や比重が違うので、これは経験や実験で覚えていくしかないところだ。

     かなり乾いていたようなので、ここで密着していないピグメントを、かぶっていたスカーフで注意深く
     はらってみる。
     そして、余分な漆喰を掻き落として、ここで本当に今日の作業は終わり。
     時間を見ると6時半すぎ。いつもなら、そろそろ帰り仕度をする時間だ。
     だいたい自分にちょうどいい1日分のジョルナータの大きさがわかってきた。
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     みんなの作業をみながらちょっと休憩し、今日の自分の仕事をもう一度チェック。
     すると、なんと顔の部分に、さっき払った焦茶色のピグメントがいくつか飛んでしまっている!
     どうやら、まだ湿っていた顔の部分の漆喰に、このピグメントも密着してしまったよう。
     がっくり・・・せっかくうまくできたと思ってたのに。
     しょうがない。顔の影の部分をもう少し暗くして、この飛んだ焦茶色をめだたないようにしよう。
     顔の部分なだけに、慎重に少しずつ、濃さを足していく。

     そこにラウルが来た。「僕も今日の作業は終わったよ。あれ、何してるの?」
     そこで自分の失敗を笑いながら話し、ラウルもあ〜あというように「修正は慎重にね」と笑う。
     彼は細密画タイプの画家だ。だから私の修正の仕方は、少々荒っぽく見えるのかも(笑)

     乾くとまた色が変わるだろうし、まだ私にはこの色のピグメントの経験は0だから、ちゃんとした予想も
     できない。
     まあ、こんなものだろう。完璧ではないけれど、初めての作品なんだから、多少の失敗には目をつぶるしかない。
     (もちろんクライアントに満足してもらえるクオリティは保たないといけないけど)
     
     早朝からはじめて、航空写真で中断した以外は、丸一日没頭して作業をした日だった。
     夕日が森の方に赤く輝いている。
     あ〜、きれいだ。
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     みんなの作業が終わって、いつもの小屋で、近所の人たちや今日の午後から参加のシルベスターも交えて夕食。
     今日はここに泊まることになってるから、みんなのんびりお酒も飲んでる。

     昼間に来たヘリコプターが低空飛行過ぎて、垣根や鶏小屋を吹き飛ばしてしまったと、隣の家のおじさんが
     嘆き、みんなが驚き、なぐさめる。
     シルベスターは美大の助手をしているそう。フレスコ画家としてここに呼ばれたことに大感激してる。
     その横で、まだ画家ともいえず、そうしたいけどどうしたらいいかを模索しつつ、初めてのフレスコ画を
     ちゃっかり描いている私は、ちょっと申し訳ないような気持ちにもなる。

     そんな夕食の宴のなか、アレハンドロはひとりで上機嫌に飲み過ぎて、ひとりで大笑いしたり、
     人の話にろれつのまわらない舌で割り込んできたり。ちょっと酔い過ぎ。
     そのうち気分が悪くなったんだろう。ふらふらと真っ暗な夜の草原に向かって歩き出す。
     みんな、「あ〜あ」という感じで見送る。
     しばらくみんなで話を続け、「さあ、そろそろお開きに」というところで、ジーザスはアレハンドロを助けに
     行き、ラウルと私はおもしろがってアレハンドロを盗撮しようと試みる。
     ああ、みんな性格が違うなあ^^
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     その晩は結局、スタンの家にみんな泊まらせてもらうことになった。
     みんなはそれぞれ1階のベッドルームや簡易ベッド、ソファに眠り、私とスタンは2階に。
     2階は洗面所以外は仕切りがないオープンスペースで、洗面所の向こう側がスタンのベッドスペースに
     なっている。
     私はちょうど反対側の、天窓の下の簡易ベッドをもらった。
     簡易ベッドは、寝ると体全体がベッドの枠から下に落ち込んでしまうもの(笑)だったけど、その晩は、
     蚊の大群とともに野宿どころか、まさに満点の星をみながら眠ることになったのだ。
     ああ、なんて幸せだろう。着替えもないし、体しか洗えなかったから、頭が汗臭いけどね^^。
     でも幸せな気持ち。

     (今日のはいつもよりさらに長かったですね。読んでくれてありがとうございます。つづきます)
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by sakanatowani | 2011-07-04 01:27 | フレスコ画 affresco
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